養豚・養鶏情報 技術アドバイザー

🐓 養鶏の技術情報

家禽の育種について

Index

家禽の導入状況

採卵鶏;
2023年における種鶏雛導入羽数は1,078千羽(うち約94%の1,017千羽が国内産で61千羽が輸入)、種鶏飼育羽数は2,455千羽であった。過去十年間でみると種鶏雛導入は1,100千羽前後、種鶏飼育羽数は2,500千羽前後で推移してきている。コマーシャル雛餌付け羽数は107、067千羽、コマーシャル成鶏飼育羽数は128,579千羽であった。過去十年でみるとコマーシャル雛餌付け羽数は100~110百万羽、コマーシャル成鶏飼育羽数130~140百万羽で推移してきている。2023年の成鶏飼育羽数が減少したのは、2022年10月以降に発生した鶏インフルエンザによる措置の影響であろう。

ブロイラー;
2023年における種鶏雛導入羽数は4,765千羽(うち99%の4,736千羽が国内産で29千羽が輸入)。コマーシャルブロイラーでは760,506千羽の雛が餌付けされ、720,878千羽が出荷された。
過去十年間の推移をみると、種鶏雛導入羽数は横ばい傾向であるが、コマーシャルブロイラー段階での雛餌付け及び出荷羽数は増加傾向にある。種鶏の生産性改善で1羽の種鶏が生産する雛羽数が増加したこと、コマーシャルブロイラーの増体改善で出荷日齢が短縮されて農場回転率が高まり出荷羽数が増加したことなどによるものと考えられる。

国内流通家禽の導入元(育種会社)

採卵鶏は鶏種が多様であるが育種会社は国内外を含め5社ほど、また、ブロイラーはほぼ1社に絞られており、大半が海外由来である。前項における種鶏導入は国内産・輸入ともに大半が海外由来ということになる。

家禽の遺伝率

以下に産卵鶏における遺伝率平均を示した。

体重、卵重、卵白重、卵殻色などの形質で高く、卵殻質、ハウユニット、卵比重、二黄卵率、卵黄重、卵形指数などの形質で比較的高い遺伝率を示している。産卵性、初産日齢、飼料要求率及び攻撃性は中程度で、生存率や孵化率は外部環境要因により影響を受けやすいことから低い遺伝率となっている。

育種改良手法

2004年に鶏全ゲノムが解読されるなどゲノム解析が進み、BLUP(Best Linear Unbiased Prediction最良線形不偏予測:育種価を得るために用いる手法で、血縁関係すべてを利用できコンピューターの大量データ処理により発達)を用いた家系選抜に加えゲノム選抜が導入され選抜精度が向上した。ブロイラーでは、種鶏の産卵率・孵化率で30%以上、コマーシャルのFCR で20%以上、体重で約7%、胸肉歩留りで約13%育種価予測精度が改善されたとの報告がある(Evolutions in Commercial Meat Poultry Breeding, Animal 2023)。

採卵鶏の育種改良

経済性、商品化率改善が主目標で、より多くの形質が対象となっている。

・産卵性:持続性向上のための体つくり
ー育成後期から産卵初期にかけての体重がやや大きくし、産卵開始前に卵殻形成のためのカルシウム貯蔵骨格(骨髄骨)を大きくする。
産卵に必要な体力(胸筋)を 増加させることで、産卵期の体重維持がしやすくなり、産卵持続性改善が見込まれる。
ー高い産卵性に耐えうる体作りのため、 50%産卵日令はこれ以上早めず、飼料摂取量は少し増やす方向。

・生存率
・飼料要求率
・卵重:産卵初期体重増による初期卵重増加、後半の体重増及び卵重増を抑える
・卵殻質:卵殻強度、卵殻色
・内部卵質:ハウユニット、卵黄膜強度、卵黄重量増加、魚臭低減(赤玉鶏対象)
・孵化率

また、ゲノム編集による卵アレルギー低減化、孵化前鶏卵での性差識別、鶏インフルエンザに罹患しにくい鶏の作出などが研究されている。

流通している鶏種が多いことや、鶏種毎の成績集計が入手しにくいことなどにより、フィールドにおける育種改良効果確認は困難である。しかし、幸い群馬県畜産試験場が20年以上にわたり鶏種評価試験を実施しており、最近2011~2020年の10年間の結果を取りまとめて報告しているので参考にしたい。10年間で実際に供されたのは17鶏種であるが、2011年と2020年のデータがあり、かつ途中年度もある程度データのそろっている7鶏種をもとに傾向をとらえてみた。

上表は2011年と2020年の比較。

少々乱暴であるが上記7鶏種をまとめた年次推移傾向を以下に示した。
・50%産卵到達日齢;数日遅れる傾向を示した。高産卵に耐えうる体づくりのために50%産卵到達日齢を早めない育種目標を満たしているようである。

・産卵性:羽当たり産卵個数HHE(個/羽)と平均産卵率HDA(%)はともにほぼ横ばい。各鶏種とも産卵性は育種的にすでに高いレベルに到達しているがゆえの結果と推察。

・平均卵重(g/個)、日卵量(g/日):120-504日齢平均では、ともにほぼ横ばい。初期高め後半抑制する方向で卵重育種は進められているが、120~504日齢間平均卵重では確認できていない。

・食下量、飼料要求率;平均食下量、卵当たりの食下量、FCRともに横ばい。高産卵に耐えうる体作りのための飼料摂取量を抑えない育種が食下量及びFCRを維持しているのかもしれない。

・生存率、40週令時生体重;ともに横ばい。後半の体重増を抑える育種目標を満たしているようである。また、体重に増減がみられないことから、卵重にも同様の傾向が見られるのかもしれない。生存率は、環境及び飼育要因が大きい。

・内部卵質(ハウユニット)、卵殻質(卵殻強度);両形質とも改善傾向にあり、育種効果がみられるようである。特に卵殻質改善は経済性及び商品化率に寄与している。

ブロイラーの育種改良

従来より、生産性(経済性)を高めることを目的に以下の多くの形質が選抜に用いられてきている。
• 産卵性
• 孵化率
• 抗病性
• 飼料要求率
• 生体重
• 胸肉歩留
• 肉質
• 骨格適合性
• 心肺機能
近年では、健康と福祉(脚の健康、心肺機能、生存率、深胸筋症)が重視され、育種改良ゴールのウェイトがトップで、次いで飼料効率、繫殖適応度となっている。

ブロイラーの育種改良効果について「Evolutions in Commercial Meat Poultry Breeding, Animal 2023」では以下のように報告している。
健康と福祉をカバーする形質には脚の健康と心肺機能がある。

• 脚の健康;
体重が増加すると脚に負担がかかり歩行に異常をきたすことがある。これを回避するために育種会社では臨床的・潜在的な脚の健康評価と歩行評価を進めており、脚不具合のない鶏割合は2015年の94%から2023年の97%と改善してきている。

・循環器機能;
育種会社ではパルスオキシメーターを用いて系統選抜鶏の血中飽和酸素レベルを測定し心臓血管系の健康状態を評価してきている。これは、腹水症や突然死症候群発症に対する個体感受性の重要な指標である。AAFC(Agriculture and Agri-Food Canada)の測定によると、育種と飼養管理改善の複合効果の結果として、腹水症による廃棄率は2000年の0.3%強から2022年の0.07%と1/4以下に減少している。また、脚の健康と循環器機能の選抜を通じて生存率も改善され、ブロイラー系統及び交配種において年間0.2-1.0%の生存率改善が報告されている。

• 飼料効率/飼料要求率(FCR);
FCRの改善は1羽当たりの飼料摂取量とともに糞排泄量やカーボンフットプリントを低減化に寄与している。

2014年と2023年のフィールド事例(FCR)を示した。育種改良のみならず飼育管理努力や設備改善もあって10年で出荷日齢が2日ほど早まり、FCRは約11%改善されている。

コマーシャルブロイラーの出荷羽数は2014年の約652百万羽から2023年の約721百万羽と10年間で11%増加しているが、FCRも同程度改善されていることから、生産性改善だけでなく、糞排泄量や温室効果ガスなどの環境へのインパクトが抑えられているものと推察する。

お問い合わせはこちらまで