養豚・養鶏情報 技術アドバイザー
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暑熱対策(2)
ヒートストレスによる大きな損失を豚の生理、栄養面で考えてみたい。
ヒトの不快指数をもとに考えてみると、70以下では快適に過ごしているようであるが、75を超えると、様々な行動が始まる。豚の状態を見て、ヒートストレスの度合いを知ることが必要であろう。
周知のとおり、豚には汗腺がない。そのために熱を逃すには冷たい面に体を当てて体熱を取る方法が良く見られる。それが横臥である。呼気から気化熱として逃す方法もあるが、湿度が高い場合には大きな効果は見られない。あとは、冷たい水を飲んで体温を下げるという方法である。
生理的には体温を下げるために、体内でいろんな働きがある。(図1)暑くなり、食欲が低下し、体内でマイナス要因が増え、豚自体がどうにもならない状態となる。しかし、ヒトの手である程度緩和することができる。前述したように冷水を与える、床を冷やす、給餌時間をずらすなどがある。また、飼料設計を変更することでも緩和できる。

多産系の母豚を用いる場合は、北欧で元々生産され、暑さに弱く、また体が大きいためにヒートストレスに陥りやすい。そのような母豚、肥育豚をできるだけ暑さに耐えられるようにするには、物理的に、冷やしてやるのが最も簡便であるが、最も費用が必要となる。
そのために、飼料、栄養で暑さをしのぐ手はあるかということである。体内の生理的な動きを飼料で何とかするのは非常にむつかしい。しかし生産者、飼料会社としてまず必要なことは、飼料の粗蛋白質(CP)で飼料の良し悪しを判断するのはやめ、アミノ酸に変更することである。
以前から語られることであるが、豚は窒素(CP)を欲しているのではなく、アミノ酸を要求している。粗蛋白質には、尿素、アンモニア、アミンなどの豚にとっては毒性のあるものも含まれる。またタンパク質ではあるが消化できないものもある。CPの高い飼料は、エネルギーに変換されるときに原料に含んでいる窒素分子を除くためにエネルギーが必要となる熱増加が起こり、豚への負担となる。(表1)

特に暑熱期には体内のいろんなところでストレスが起こり、アミノ酸とエネルギーが必要となり、生産、繁殖を抑えて体を守るためにCPではなく、アミノ酸が必要となる。最近の欧州の研究では飼料中のCPを2~3%減らして、アミノ酸でバランスを取ることで十分であるとしている。
海外からの種豚を用いている生産者は、マニュアルにSIDアミノ酸と記されているのを見られると思うが、これは標準回腸消化アミノ酸で豚が本当に消化できるアミノ酸である。そのマニュアルにあるSIDアミノ酸量を参考にして飼料設計を多なうことをお勧めする。
エネルギーを確保するために、暑熱期は油脂、合成アミノ酸の添加が勧められている。飼料価格はCPではなくアミノ酸で設計すると、逆に安価となる可能性が高い。飼料添加物で体温を下げられれば良いのであるが、ヒトが食べる食品を豚に与えるのは費用的に問題である。しかし、いろんな研究から、活性酵母、クロム、セレンを添加することである程度母豚、肥育豚を守ることができる。これらの添加物を上手に用いることで、飼料価格は少し高くなるが、離乳頭数、出荷頭数が増え、母豚死亡率、肥育後期の死亡率(食い逃げ)が減れば添加物代金は十分に補填できる。夏が来る前に、飼料設計の担当者と話し合うべきである。添加物の中で、酵母が良いのは、腸健康を増進する。(図2)

腸が健康になれば、摂取した飼料を十分に消化吸収することが可能となる。表2で示すように、母豚へ酵母を与えることで、子豚の離乳体重が増え、母豚の飼料摂取量も増えることが分かる。

また、肥育豚の試験では、炎症が抑えられ体重が伸びている。(図3)これはストレスによる問題を良い方向に向けていると考えられる。それには豚が要求している栄養素を確実に配合することである。他の添加物で、他の国で用いられているが、日本ではなぜか用いられていないものとしてクロム酵母とセレン酵母がある。一般的に毒物とみなされているようであるが、両方とも必須微量ミネラルとして重要な役割を持っている。クロムはインシュリンの調整をし、肝臓でのIGF-1(成長因子)の生成を助ける。セレンは細胞内の抗酸化物質として使われる。細胞膜の抗酸化に対してはビタミンE、Cなどが使われている。

この他にも、繊維を上手に使うことで、特に、母豚の便秘をなくし、あるいは発酵しにくい繊維による腸内発酵温度を下げることで、母豚を助けることも知られている。発酵しにくい繊維としてリグノセルロースがある。欧州では母豚の繊維含量の規制が日本の2倍くらいあり、発酵しにくい繊維を用いざるを得ない。これはアニマルウェルフェアがもとになっているらしい。また、妊娠後期の便秘を少なくし、便秘由来の内毒素(LPS)による子豚浮腫病も防ぐ可能性がある。同時に、多産系の死産を防ぐ効果もある。分娩時間が短くなると、ヒートストレスからもある程度解放される。同時に、繊維給与による飲水量も増え、体温調整にも効果がある。このリグノセルロースは決して安価なものではないが、母豚の熱死、子豚の生存率を考えると安価なものであろう。

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