乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回)
【10回目】高乳量は飼養管理で対応が可能だ
産褥牛は広いスペースで乾物摂取量を
ルーメンには多くの微生物が生息しており、採食した飼料中の繊維、炭水化物、タンパク質などを分解、発酵し、乳牛にとって重要な栄養源となる低級脂肪酸を生産している。
デノボ脂肪酸はルーメンの活動力、ケトン体は肝臓機能の強弱に関連するが、飼料充足という面から一致している。分娩後のエネルギーがマイナスになり体脂肪が過剰に動員され、ケトン体(BHB)が乳で0.13mmol/L以上を示すと潜在性ケトーシスになる。
図は乳牛の健康とルーメン状態をモニターできるデノボFA(De novo FA)と、ケトン体(BHB)の関係を示した。
分娩後60日以下に限定すると両者には負の相関、体やエサからの脂肪酸であるプレフォームと正の相関関係があった(北酪検)。
産褥牛は密飼いによる狭い飼槽幅や少ない牛床数においては、動きが鈍く他の牛から圧倒される弱い立場だ(写真)。
乳量がピークになるものの、強い牛に喰い負けで乾物摂取量が低下し、ルーメンからの脂肪酸生成量が落ちる。
そのため、大型経営体では産褥牛群として、ひとつのグループを作っている。分娩後60日以下の牛は、脂肪酸組成を注視し、広いスペースを確保して乾物摂取量を高める管理が望まれる。
乾乳から泌乳初期の飼養管理で
図は酪農家の個体乳量と、分娩後60日以内の潜在性ケトーシスが疑われる高ケトン体牛(BHB0.13mmol/L以上)割合の関連を示している。
両者の相関はなく、個体乳量が多いからと言って高ケトン体が高いかというと、そうではない。このことは、分娩前後の飼養管理の改善によって、ケトーシスを防ぐことが可能ということを意味する。
酪農家における潜在性ケトーシス罹患率のガイドラインは15%程である。乾乳から泌乳初期にかけて飼養管理の目安として、この数値を上回れば「管理の見直しが必要」と判断する。北海道における高BHBは牛群WebシステムDLで、酪農家個々で随時確認できる。
ケトーシス(高BHB)を予防しルーメン(デノボ)を活動させるためには基本的な事項に3点がポイントである(写真)。
➀分娩前後における乾物摂取量の落ち込みを少なくする。
②分娩時点で肥り過ぎないような泌乳末期から乾乳期の管理を徹底する。
③分娩直後における低カルシウム血症などの周産期病を減らす。
緊急的には①はプロピレングリコールやグリセリンを投与し血中グルコース濃度を高める。
②はバイパスコリン(商品名 スターコル60)を分娩前後1日50g給与し、肝臓内の中性脂肪をリポタンパクとして速やかに排出する。
一乳期の中でも、ストレスが最大になる乾乳から泌乳初期の飼養管理を徹底すべきであろう。
活性酵母でルーメンの活動を
酵母は様々な効果を有するため、家畜の補助飼料として古くから使われている。活性型酵母は通常胞子の状態で貯蔵されているが、給与するとルーメン内で出芽し菌の活性を高める。目覚めた酵母がルーメン内の酸素を吸収することで、嫌気性に傾け微生物が働きやすい環境をつくる。繊維消化細菌、乳酸利用菌の活性を高め、飼料の消化率を高めプロピオン酸、酢酸が増えて乳量と乳脂肪のアップにつながる。
S牧場は大型経営でフリーストール、ロータリパーラー、搾乳牛482頭、個体乳量9,387㎏、体細胞161千個の成績だ。群は高乳量牛群と中低乳量牛群(受胎、不受胎群、初産牛群、産褥牛群など)に分けている。
6群は通常通りの給与体系で、高乳量牛の一群のみ を活性型酵母(製品名 アクテイサフ)一日一頭あたり5gを添加した。
その結果、活性型酵母無添加群の乳量は26.7㎏、前月、前年同月と大きな違いはなかった(表)。
一方、添加した高乳量牛群84頭は45.0㎏で前月と比べ乳量3.4㎏、前年同月と比べ4.8㎏増えた(表)。
しかも、ルーメンで生成されるデノボ脂肪酸は高まり、残飼が減り乾物摂取量も増えた。
設計者と協議した結果、NDF32%、有効繊維24%と低いこと、粗飼料面積が制限され、切断長はサイレージが0.8㎝と短く繊維源が懸念された。
活性酵母は繊維消化率を高めるだけでなく、アシドーシスの予防効果があり、ルーメン(細菌叢の順応と発酵促進)の安定化に寄与する。粗飼料不足や質低下が懸念される牧場や月には、活性型酵母を試す価値がある。
このことから、高い乳量は添加剤など駆使して、酪農家の飼養管理で対応ができる。
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【テーマ1】分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)
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