乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回) 

【3回目】選び喰いをなくし同じエサを喰べる

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牛は本能的に旨いエサを喰べる

 飼料設計は1日の給与量であって、「すべての対象牛が24時間平均的に同濃度の飼料を摂取する」ことを前提にしている。提案する設計が正確でもTMRの調整や給与によって、選び喰いが行われると本来の目的を達成することができない。特にビタミン、酵母、吸着剤・・・、などの添加剤は量が少ないだけに一部の牛だけが摂取すると効果が劣る。

 牛は本能的に旨いエサを喰べる生き物で、TMR経過時間別繊維の変化をみても穀類が減って長ものだけが残る。調製直後の飼料と残飼の粒子サイズを調べたが、給与直後は反芻を強める1.9㎝以上の粒子が19%であった。
しかし、5時間後は39%まで増え、同時に、反芻を弱める粒子8mm 以下は40%まで減少していた(表)。

 
 このことから、牛は旨いエサを完璧に選んで採食していることが理解できる(写真)。



 同一TMRを給与していても高泌乳農家ほど、採食、反芻、横臥時間が長い。飼槽へのアクセス回数と時間が増え、効率的な採食で休息時間を増やすことができる。さらに、飼槽で分散を促し競合を減らし、ゆっくり喰べることが可能になる。このことから、選び喰いや固め喰いをなくし、繊維の微生物が活動できる安定的なルーメン環境づくりが求められている。


選び喰いは蹄病の原因になる

 酪農家25戸1,681頭の肢蹄をスコア化し乳量、成分を調査分析したことがある。蹄冠・飛節が健康と判断できたのは 全体の53%しかなく、多くは要治療牛、治療予備牛であった。(図)

 肢蹄の悪い牛は乳量が低く、体細胞数が高く、空胎日数が長くなっていた(表)。

 追跡すると 、最大の要因は肢蹄の悪い酪農家(牛)ほど、選び喰いが激しいことが分かった。給与後1時間で牛側飼槽隔壁からの距離が30㎝、2時間後に60㎝ほどで穴が掘れるのが確認できた。
穀類は急速に分解発酵するため、ルーメン内pHが急速に低下、アシドーシスになり毒素が増え血管の末梢で炎症が起ったと考えられる。


牛の動きで選び喰いが判断できる

 選び喰いの判断は経時的にエサの粒度をパーティクルセパレイター、ふんの粒度をダイジェスチョンアナライザーで測定しなくても、個体牛の動きを数時間モニターすることで判断ができる(表)。

 飼槽表面で顔や舌を激しく動かし、給与したエサに穴を空ける、遠いところへ放り投げる、口周辺にエサが付着する(写真)。やたらと牛の位置が変わり、とくに強い牛は頻繁に移動する。

 最初のTMRを給与直後に長時間滞在して大量に摂取、掃き寄せしたときに牛が飼槽へ通常の3割以上余計に集まる。以後、次回以降の飼槽へアクセス時間は短く、回数が減少していく。

 飼槽のエサは時間の経過とともに盛り上がるが、小さい山から大きな山になるまで短くなる。掃き寄せ時および残飼処理時に、飼槽前方へ細長く散らばる。

 ふんの形状が時間帯で異なり、朝夕搾乳時にスコアが2段階の違いを観察できる。新鮮なエサが給飼されていれば、パーラーから飼槽への動きは急ぎ、古いエサが残っているときは、帰り通路で牛はたむろする。

 初産牛は経産牛より口が小さく動きが激しいため、穀類を選択が行われやすい。選び喰いは旨いエサを喰べるというのではなく、一度に大量の濃厚飼料を喰べる「固め喰い」「早喰い」を意味する。


選び喰いを防ぐ管理が求められる

 給与した飼料の選び喰いを防ぐには、粗飼料の嗜好性を高めるべきで、主体となる繊維源の良質化である。牧草の収穫時の刈り遅れ、芝麦やリードキャナリーグラスなどの雑草が入る、バンカーサイロの入口と出口に近づくと踏圧不足により酪酸発酵で口は激しく動かす。

 牛の口は大きくないので長ものが喰べづらく、切断長は10mm程度を目安にする。設定した牧草サイレージの切断長で収穫しても、本来均一になるべきだが細かく分けると長さが異なる(写真)。

 強い牛はエサに口が届かなくなったら弱い牛のほうへ移動するので、弱い牛が十分に喰べ終えるまで張りつけておく。そのためには、強い牛が15~20分ほどで移動するので、1回目のエサ寄せは採食後早めに行う(写真)。

 また、飼槽の端側にエサを落としていないケースが見られ、そのわずかな空間には弱い牛が入る位置だ。一頭あたりのバンクスペースを広げることは、不必要な競合を防ぎ自然な採食が可能だ。

 子牛のときに選び喰い、固め喰いや早喰いが行われていると、その牛が成長して親牛になっても行う。子牛は混ぜエサ(TMR)ではなく、粗飼料と人工乳を分離して給与する。牛は旨いエサだけを完璧に喰べる生き物なので、すべての牛が同じエサを喰べられる管理が求められる。

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