乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【6回目】分娩時のトラブルは繁殖へ影響する

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死産は子宮内膜炎へ関連する

分娩後の疾病と繁殖はタイムラグもあり酪農家は単独で考えがちだが、双方は密接に関連している。死産は分娩時に「子牛が死ぬ」という一次的な問題でなく、母牛にもボデイブローのように後から効いてくる。今産に死産を経験した母牛は次産のトラブルになることが多く、特に繁殖はマイナスの影響が大きい。

酪農家単位でみていくと、分娩頭数に対する死産率と次期分娩間隔の関係は正の相関がある(図)。

死産率の高い酪農家ほど次期の分娩間隔が長く、低い酪農家ほど短くなる傾向にあった。

個体牛を追跡していくと、子牛の死産記録があった母牛の分娩間隔は2産426日(n=38)が次産456日、3産以降牛419日が次産441日(n=68)と延びていた。さらに、長期不受胎牛が多く、淘汰の割合が高くなっていた。

その要因は分娩状況が子宮内膜炎へ関連し、オッズ比(罹患牛と非罹患牛)は胎盤停滞34.3倍、死産7.9倍、双子5.0倍、助産2.8倍、乳房炎1.8倍、低カルシウム血症1.6倍だ(Potterら2010)。


妊娠中の子宮は無菌状態であるが分娩直後からさまざまな細菌が検出、子宮の収縮に伴って悪露と一緒に体外へ排出される。しかし、分娩後しばらく経過しても細菌が残り、子宮の修復がスムーズでなければ子宮内膜炎へ移行する(写真)。

死産は子宮炎や子宮内膜炎と関連が強く、産道へ大きなダメージとなり受胎率を低下させ繁殖にも影響する。

床面が汚い環境下では分娩をためらい、しばらく胎児をお腹の中に入れておく。敷き料を交換すると分娩が集中するのは、子牛を細菌から守るための本能であろう。乾乳から泌乳初期の場所は清潔度を高め、乳房炎を少なくして受胎の確率も高める。


分娩トラブルは繁殖へ悪影響だ

人は体調がすぐれなければ、その時だけでなくしばらく経過してから後遺症として現れる。分娩2ヶ月間で疾病記録のない牛を健康牛とすると、その乳期の分娩間隔は398日(n=704)、乳房炎牛425日(n=186)、その他疾病牛434日(n=328)であった。同様に、初回授精は健康牛81日、乳房炎牛90日、その他疾病牛94日であった。

表は分娩後初回授精日数と受胎率と分娩間隔を示している。
初回授精51~80日は受胎率50%を超えているが、初回授精日が早いほど分娩間隔は短い(n=960)。自発的待機期間(VWP)の考えもあるが、多くは周産期の体調不良(疾病)で強い発情がこないため授精が遅れると推測できる(写真)。

周産期に獣医師の治療記録がある牛は初回授精が遅れ、分娩間隔が延びる。分娩トラブルは一時的であっても、数か月後の繁殖まで悪影響を示すことが理解できる。


分娩後の乳房炎は受胎に影響する

現場で移行期牛45頭を追跡、体重、分娩状況、飼料充足、発情強弱、授精のタイミング、直検したときの卵巣・子宮の状況をチエック・・・した。データが取れた37頭について、分娩後150日以内の早期受胎牛17頭、不受胎20頭の分娩状況と疾病を確認した。

その結果、早期受胎牛は自然分娩が93%(不受胎牛80%)、難産・双子7%(20%)、死産7%(15%)、周産期病が20%(32%)で、早期受胎牛は分娩前後がスムーズに移行していた。

分娩後の疾病は繁殖に悪影響することは理解できるが、注目すべきは体細胞と受胎の関係だ。分娩後3ヶ月以内の体細胞は受胎牛がすべて7万個以下だが、不受胎牛は総じて高かった(表)。

受胎牛は乳房炎発症が10%(除籍ゼロ)に対し、不受胎牛が36%(除籍9.1%)罹患していた。一地域181戸の酪農家における年間平均体細胞と分娩間隔の関係は、乳房炎の発症が多いほど長く、乳質が良いところは繁殖も良好であった(図)。

初回種付け前に臨床型乳房炎を発症した牛は初回授精日数が71日から94日と23日遅くなった。初回種付け後に臨床型乳房炎を発症した牛は受胎までの授精回数が2.9回で、発症しなかった牛の1.6回より多かった(Hockett2001)。

酪農家は乳房炎が乳質や乳量の低下を招く疾患であるが、受胎に関連するとは考え難い。

しかし、 乳腺細胞という一局所の炎症が体全体を蝕み、乳頭から遠い卵巣や卵胞へ直結する。分娩時のさまざまトラブルは繁殖へ悪影響することが分かった。

乳牛の分娩前後をトラブルなくスムーズに移行することは、乳量、労働・・・、あらゆる面でプラスの方向へ導く。

 

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