乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【9回目】健康な状態で長命連産を目指す

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乳牛の償却費を減らし所得を増やす

酪農経営は畜産クラスター事業などで搾乳ロボットなどの機器が導入され、多頭化、大型化、自動化、外部化が急速に進んできた。
しかし、牛の事故を減らし健康に飼いながら分娩間隔を短縮するというソフト面が軽視されてきた。

図は搾乳牛一頭当たりの生産費の構成割合を示しているが、飼料費と乳牛償却費は全体の3分の2を占めている(農水省)。
エサ代は乳生産へ影響するが、償却費を下げることはすべての酪農家が目標にすべきで所得へ直結する項目だ。


除籍(更新)産次を3.5から4.0産まで延ばしたら一頭23千円、もし100頭飼養していたら所得が230万円を確保できる。
「175千円(R2全国乳牛償却費)-152千円(175×47/54)=23千円/頭」。※除籍産次3.5産(47ヶ月間)/4.0産(54ヶ月間)。

写真は北海道内で飼養されている17歳、15産、長命連産を象徴する牛を現場で確認した。
年齢もさることながら、毎年、受胎して出産していることに驚きを感じる。顔は白が目立ち、脇も広がっているが、肢蹄もしっかりして乳房の垂れも少なく、酪農家はもう一産搾ろうかと話していた。
このような長命連産牛は少なくても現状の除籍産次と比べれば、4頭分以上の役割を果たしている。


乳牛償却費は年々上昇している

図は北海道における牛乳100㎏あたりの生産費と乳価の推移を50年間にわたって示している。
飼料費の割合は上下しているが、乳牛償却費は年々高くなり、2021年生産費の23%までになっている(農水省)。
これは乳牛の耐用年数が低く、回転が速くなっている。牛群の平均産次は2.4産、除籍産次は3.2産まで低下、初産牛~3産の若い牛が中心になってきた。過去からみると疾病や繁殖悪化で、回転が速くなっている。


北海道ノーサイの引き受けに対する死廃事故頭数被害率をみても、地域別に差があるものの毎年高い割合で推移している。もし、この数値を1割でも2割でも下げることができれば、道内の酪農業界は莫大な頭数と金額がプラスの方向へ向かう。

現場では人為的な管理ミスによる想定外の母子の死を見かける。幾度となく授精してようやく受胎、10か月間も育て母子を失うことは時間と労力と金を費やし大きな損失である。乳量維持拡大するためには将来の戦力である後継牛確保と健康な母牛が前提になる。

乳牛として長命連産で生産能力を100%発揮させることが、人(牛)生を全うしたことを意味する。牛は人からエサ、水、寝床・・・を与えられなければどうすることもできない生き物だ。


健康で長命連産の方向を目指す

酪農家における分娩60日以内除籍率と年間除籍率の関係を確認したが、両者の相関は高い。一年間に除籍する牛は乳期全体にバラツクことなく、分娩直後に集中していることが分かる。


同様に、年間子牛死産率と年間牛群除籍率の関係は、死産率が高ければ除籍率も高くなる(r=0.324 n=106)。
また、年間子牛死産率と牛群平均産次の関係は、死産率が高くなれば平均産次は低下する(r=-0.316 n=106)。

このことから、酪農家における子牛の死産や母牛の死廃は牛群の淘汰を早め、長命連産を妨げていることが分かる。これから本格的な乳生産を期待していただけに、農業者の意志に反して大きなダメージとなる。

乳牛の寿命は人の4分の一の20年ほどだが、現場では6〜7年でその生涯を終える。
除籍産次4.4産と供用年数が長いF牧場は歩くことが健康になる考え方から、雨の日も風の強い日でも放牧へ出す。
冬期間は乾乳牛だけでも、牛舎近くにあるコンクリートの上に火山灰を敷いて運動ができるようにする。
結果として、分娩時のトラブルが少なく、母子ともに健康になるとの信念を持っている。

担当する人工授精師に聞くと、毎日酪農家を巡回しているが、「Fさんの牛は周辺酪農家と比べて肢蹄が良く乳量も1万㎏を維持している」と話す。分娩前後をスムーズに移行し、健康な状態で長命連産の方向を目指すべきであろう。

近い将来、乳用牛飼養頭数の減少により、生乳生産衰退傾向にあるトレンドを変えるためには酪農家個々が危機感をもつこと。単純に頭数を増やす発想から、牛を健康に飼って繁殖成績をあげて供用年数を延ばすべきだ。

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