乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回) 

【8回目】粗飼料はケトン体(BHB)に反応する

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乳で潜在性ケトーシスを判断する

 生乳は隔日バルク乳、月一回の乳牛検定でさまざまな分析が行われ、酪農家へ情報が提供されている。ここ数年、血液でしか分からない項目が、乳から分析値が明らかになってきた。牛の体から発信する数値なので価値が高く、飼料設計の組み立て飼養管理に生かすべきだ。

従来まで、潜在性ケトーシスの見極めは血液が客観的だが、現場での活用は難しく、サンケトペーパーで判断(写真)することが多かった。

 乳成分測定機はケトン体のBHB(βヒドロキシ酪酸)の分析ができ、血や尿と比べ手間や時間をかけることなく、簡易で安価な手法で判断できるようになった。
BHBは乳と血の関係は高く、分娩100日以内は極めて高く、「感度」と「特異度」から0.13mmol/L(血液は1.2mmol/L)以上を潜在性ケトーシスだ。

 ルーメン内で細菌、プロトゾア、真菌などが無数に活動して、揮発性脂肪酸(VFA)を大量に生成する。
しかし、分娩後、エネルギーがマイナスとなり、糖質や糖原性アミノ酸が代謝され生体維持に使われる。体脂肪に蓄えられた中性脂肪はホルモン感受性リパーゼによって分解され、非エステル型脂肪酸(NEFA)が生じ肝臓に動員される。

さらに、エネルギー不足が生じた場合は,肝臓に動員された過剰なNEFA はケトン体の産生に回る。
多くなると臨床性のケトーシスになり、潜在性の段階で早期に対応することが求められている。


泌乳初期に注意深くモニターをする

 分娩後60日以内 11,422頭の個体牛ケトン体(BHB)のヒストグラムを確認した。
平均値は0.06mmol/Lだが、ゼロから0.5 mmol/L まで広い範囲で分散している。
個体牛でゼロmmol/Lは14%、潜在性ケトーシスと判断される高ケトン体(BHB牛 0.13mmol/L以上)牛は10.6%になる。

 図は分娩後搾乳日数別の潜在性ケトーシスと判断される高BHB牛の割合を示している。
分娩後14日以内 20%、35日以内 15%、60日以内では 11%であった(北酪検)。

疾病は分娩後に多発することが多く、周産期病だけでなく乳房炎、蹄病は一乳期の中でも泌乳初期に罹る確率が高い。牛にとって分娩・出産・泌乳という仕事は極めて負担が大きいことを意味する。

 ここ数年、急激に頭数が増える中、すべての牛のモニタリングは不可能である。乾乳から分娩前後における飼養管理を改善することで、多くの疾病を予防できる。
高ケトン体(BHB)牛は一乳期でなく、泌乳初期の潜在性ケトーシスを注意深くモニターすべきであろう。


サイレージの発酵品質を改善する

 粗飼料の主体はグラス・とうもろこしサイレージで、給与量が30㎏にも及ぶ。飼料分析値から多くは乳酸発酵だが、酪酸含量の高く許容範囲を超えたものが散見される。乳牛は草食動物なので、繊維はルーメンのみで消化吸収が行われている。

サイレージに含まれる酪酸は、第一胃及び第三胃の粘膜上皮に吸収されてβヒドロキシ酪酸(BHB)というケトン体に変換される。血中のBHBが高まると、食欲低下、反芻や消化管運動が減少、急激に痩せてケトーシスが発症する。乳期に関係なく牛群全体が高い傾向であれば、サイレージの発酵品質を疑うべきだ。

 表は4TMRセンター構成員と、その所在地である地域全体(町)酪農家の高ケトン体牛割合を比較した。
その結果、4センターの単純平均は分娩後の60日以内、TMRセンター2.6%(23戸)は地域平均7.2%(359戸)より低い。

30日以内はTMRセンター4.0%(31戸)は地域平均11.0%(359戸)より低く同様な傾向であった。

 TMRセンターは周辺酪農家と比べ、計画的な草地更新や適正な施肥管理など、植生改善を積極的に取り組んでいる。
しかも、大型ハーベスターを動かし短期間で収穫し、踏圧、密封という調製技術も高く、酪酸発酵する割合は低い(写真)。

そのため、乾物摂取量が増え乳量は周辺酪農家と比べ高く、構成員間のバラツキは少ないのが特徴だ。

 このことは、TMRセンターで調製したサイレージは、他の酪農家と比べて明らかにケトン体が低い傾向を示した。ただ、TMRセンタに共通しているのはバンカーサイロの切り替え時に乳量減、体細胞増、乳房炎多発、・・・など、構成員からクレームが多いという。
サイロの最初と最後の部分は踏み込み不足でBHBは高くなる可能性がある。
サイレージ(粗飼料)の発酵品質を改善することが、ルーメンの健全にして牛を健康にする。

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