乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【2回目】介助は最小限で自然分娩を心がける

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分娩介助は必要最小限にする

 乾乳時点において母牛が健康で介助することなくスムーズであれば、自然分娩が行われ母牛が子牛を舐める(写真)。

搾った乳は栄養が富み、免疫グロブリンを多く含み、初生子牛は吸収率が高くなり元気だ。母牛は周産期病に罹ることなく、受胎が早いため肥り過ぎることなく、次の分娩も正常に行われる。

 一方、介助、難産、双子・・・などでトラブルがあれば、母子ともに不健康になる。搾った乳は栄養が少なく、免疫グロブリンが低く、初生子牛は吸収率が低く虚弱になる。母牛は胎盤停滞、子宮内膜炎、乳熱、ケトーシスなどの周産期病に罹りやすく、受胎が遅れ肥り過ぎで次の分娩もトラブル。

 自然分娩は子牛腰部が外陰部を通過した時点で母牛は踏ん張りをやめるが、その時点で臍帯がつながって血液が循環されている。人の手による介助は一気に引き出すため、臍帯が先に切れてしまうため、自然分娩で生まれた子牛は元気だ。

 牛は自然に子牛を生む生き物だが、人工的に飼っていると難産は介助のタイミングが難しくなる。夜の作業が終了するときや明日が休日のときは、早めに牽引したくなるのが人の心情である。自然分娩の割合は7割程度だが、低事故率農家の実態から、牛自から分娩する割合は9割以上が可能と判断できる(写真)。

 ある獣医師は「母牛は自分が生みたい、胎児は自分が外界に出たいという時を待つことだ」と話す。分娩トラブルの少ない酪農家(母牛60日以内廃用、死産)へ秘訣を尋ねると、「陣痛が始まったら家へ入る、苦しんでいる姿を見るとけん引したくなるからだ」と話す。分娩介助は必要最小限にする双方の言葉が印象的で且つ説得力をもつ。


難産を防ぐ精液を選択する

 北海道の死産率は分娩年で2013年6.86%、17年6.00%、22年5.25%まで低下している(北酪検)。わずか1%減の数値でも北海道35万頭以上の分娩頭数から判断すると大きな意味をもち、精液が一因として考えられる。

 北海道における交雑種の頭数推移を個体識別センターから拾ってみると、2010年11千頭、20年165千頭、22年12月184千頭まで増えている(図)。

日本飼養標準乳牛2017年版によると、子牛の体重はホルスタイン(経産)46kg、黒毛単子は30kg、交雑種(F1)36kgを基礎数値にしている。黒毛和牛はホルスタインと比べて明らかに体が小さく、難産を防いでいる。

 一方、難産を分娩難易3以上にすると、初産牛♀は3.8%で♂の8.9%より低く、♀は体格や体重が小さい(北酪検)。実際に生まれた子牛の体重を調べでも、♂45.6kg(n=81)は♀42.4kg(n=144)と雌が3.2㎏ほど小さい。性判(選)別精液の受胎率は落ちるものの、♀9割以上というのが魅力的で、増頭を希望する酪農家などで急速に普及してきた。

 全国の乳用種年度別推移をみても、通常精液を主体としていた2010年♂が50.4%、♀49.6%であった。
しかし、性判(選)別精液の普及により、2021年は♂36.5%、♀63.5%と雌比率が高くなっている(図 個体識別センター)。

このことを考えると、乳牛は分娩前後の管理だけでなく、精液選択によって難産が少なく後継牛確保へ繋がる。


双子は妊娠期間が短く早めに対応する

 双子分娩は通常精液や性判(選)別精液と比べ、死産などのトラブルが多く酪農家は敬遠する。最近、高乳量や追い移植で発情時における排卵する卵が複数あり、双子の割合が多くなると指摘されている。

 双子は単子と比べ高い確率で介助を必要とし、胎盤停滞の発症が多く、牛の体調が崩れて疾病や繁殖まで影響する。難産発生率は単子7.2%、双子22.5%と3倍であった、胎児死も単子5.9%、双子22.4%と4倍であった(O.Cobanoglu 2010)。

 表はある農場の単子と双子の分娩した牛の淘汰(廃用)状況を示しているが、双子を分娩した母牛の一年間の淘汰率は55%と高い。

 ホルスタイン双子の妊娠期間は単子より5日ほど短く275日で、想定された予定日より早く生まれる。なぜかというと、狭い腹の中に胎児が2頭もおり、母はイヅクて早く外へ出したい、子は窮屈で早めに外界へでてきたいのだろう。

 そのため、双子と判断した時点で、前倒しして作業スケジュールを立てる必要がある。双子の生時体重は小さいものの、2つの体重を加えると1.6倍まで要求量が高まる。乾乳日数は40日でなくしっかり60日を確保、クローズアップ期を数日間早めに設定する。双子は妊娠期間が短く乾物摂取量を高めるなど、対応が求められている。


 

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