乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ1 分娩後の体脂肪動員・泌乳前期のエネルギー充足(8回)

【2回目】疾病には共通点があり着眼点が重要だ

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疾病の多くは分娩後に発症する

 疾病は分娩後(周産期)に集中することが多く、牛にとって分娩・出産・泌乳という仕事は極めて負担が大きいことが分かる。これはストレスが要因で免疫システムが抑制され、分娩前後にあらゆる疾病の可能性がある。
 第一に、母体は胎児が急激に成長し、出産と泌乳の準備が行われ、分娩時はホルモンが著しく変化する。一方、牛にとって乾乳から分娩にかけて施設・管理・飼料の環境が大きく変化する。特に、初産牛は初めての連動スタンチョン、濃厚飼料多給のエサ、聞き慣れないミルカーの音と搾乳作業・・・馴致が行なわれていない牛にとって大きなストレスだ。
 第二に、牛乳1kgのなかには約1g、初乳中には2倍のカルシウム(以下Caと略)が含まれ乳房内および体外へ放出している。分娩と同時に40kg以上生産すると大量のCaが乳へ移行、低Ca血症になり体を動かす平滑筋の収縮が低下する。
 分娩後の低Ca血症である乳を、完全に予防している酪農家と経産牛の3割以上も発症しているところがある。乳熱が多発する酪農家は産褥熱、第四胃変位、低Ca血症、後産停滞など関連する疾病の発症割合が高い。(図)

                             

 しかも、年次でみても経産牛に対して、乳熱の罹患率が前年度高ければ本年度も高い傾向であった。これは酪農家個々の飼養頭数や個体乳量には相関がみられないため、乾乳から分娩の飼養管理が影響している。  
 第三に、乾乳期間に乳頭口から菌が侵入、すでに乳房炎へ罹患している可能性があり分娩後に集中している。 図は経過日数別急性乳房炎発生件数を示しているが、640頭中分娩後10日以内が26%、30日以内が39%を占めている。 
 疾病は一乳期の中でも泌乳中期から後期に罹る確率が低く、分娩、泌乳初期に集中する。すべての牛をモニターすることは不可能なので、乾乳から分娩前後における飼養管理を改善することで多くの疾病は予防できる。

              


疾病は高産次・高乳量に発症する

 集約放牧において泌乳初期のエネルギー水準が、乳生産と乳牛の健康に及ぼす 影響を明らかにした成績がある(道立根釧農試 1995)。血清遊離脂肪酸濃度 は分娩後2週目で808uEq/Lと極めて高く4週目まで基準値を超えていた。 同様に、血糖値が52mg/dlと低く、体脂肪動員を示す牛乳中の脂肪酸組成C18は50%と高かった。
 M農場における分娩牛148頭の産次別疾病発症状況をまとめたものである。治療割合を見ると、1産牛は自家治療(軽症)のみで8%、2産は22%、6産以上牛は獣医師治療(重症)が中心で83%だった。産次が進むほど周産期疾病が増える傾向にあり、治療は自家から獣医師へシフトしている。
 とくに4産目から、分娩牛の治療割合が5割前後と極端に増えていることが注目される。 疾病は初産や低泌乳牛に発症するのではなく、産次が進み乳生産の高い牛ほど罹患の可能性が高い。すべての牛モニターすることは不可能なので、高産次牛・高泌乳牛の飼養管理を改善することで多くの疾病は予防できる。

                                              


疾病は単独でなく複雑に絡む

 現場で牛個体を確認しても毛づやが悪く、痩せ気味の牛は体調も良くなく採食 量も少ない。多くは低カルシウム血症で脂肪肝、第四胃変位、胎盤停滞、ケトー シス、乳房炎へつながっていく。表は分娩後における疾病の重複割合を示しているが、産褥熱70%、乳熱57%、ケトーシス75%、第四胃変位62%で疾病は複雑に絡んでいる。

 複数回疾病発生順位をみても、最初の疾病に罹る(カルテ)割合は第四胃変位や食滞が49%、分娩トラブル80%であった。2回目以降の割合は乳房炎62%、運動器病78%、繁殖器99%であった。乳熱は初回の割合が96%と高く、それを引き金として次ぎ次ぎと疾病に絡んでいることが分かる。
 分娩後の疾病は連鎖関係にあり、最初の疾病を抑えることが問題を解決するキイワードになる。すべての牛をモニターすることは不可能なので、乾乳から分娩前後における飼養管理を改善することで多くの疾病は予防できる。このことから、疾病にはいくつかの共通点があり、着眼点が重要になる。

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