乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ2 牛の健康はルーメンの健全にすることを最優先(10回) 

【2回目】ルーメンの恒常性を保つ管理をする

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日々の変動を少なくする

 乳牛のルーメンには多種多様な微生物が、互いに密接に関連しながら生態系を形成している。ルーメン内容物1g当たり約100億の細菌類と、50~100万のプロトゾア(原生動物)無数の微生物が生息している。これらの働きにより、ルーメン内において飼料成分の分解と合成が盛んに行われている。
 さらに、適度な粗飼料が反芻を促し、唾液を分泌しルーメン内の恒常性が維持される。ルーメン内pHは6.0以上にして、日々の変動を少なくする飼養管理が求められている。

 

 表はルーメンで生成される低・高デノボ脂肪酸(De novo FA)における酪農家のバルク乳10旬の標準偏差で、経時的な動きを示している。
低デノボ FA26%以下の牛群64戸は1.12、高デノボ FA31%以上の牛群132戸は0.57であった。
 デノボ脂肪酸の高い酪農家はほぼ一定であるのに対し、低い牛群はその月旬によって動きが激しい。

 バルク乳は全道及び地域と比べて、デノボFAが高いか、低いかを見極め、群としての健康状態を確認する。さらに、時系列に脂肪酸組成の年間変動をみて、過去に遡って給与した飼料や管理を再点検する。すべての牛が日々変ることなく給与する飼料や手順・・・、ルーメン微生物の変動を小さくする管理が求められている。
 乳量や乳脂率が高いことは必ずしも素晴らしいことではなく、安定することが牛の健康状態は良い。


年間の変動を少なくする

 F牧場は搾乳牛700頭、個体乳量10,100㎏、体細胞10万、空胎日数125日、TMR給与で飼養管理技術の高い大型経営である。
バルク乳36旬の乳脂率は4.01%とほぼ北海道と同様な数値だ。デノボFAは30.3%、プレフォーム FA34.9%、デノボ Milk1.14%であった。デノボは高くプレフオームが低く変動が小さく、ルーメンの恒常性が維持されている。(図)

 一方、H牧場は搾乳牛40頭、個体乳量7,350㎏、体細胞20万、空胎日数207日、放牧をしている小規模経営である。
バルク乳36旬の乳脂率は3.81%、デノボ FAは26.3%、プレフォーム FA41.9%、デノボ Milk0.94%であった。(図)
デノボは低くプレフオームが高く、ルーメン恒常性が維持されていない。H牧場は経時的に激しく上下しており、健康や乳量に個体間差が生じ管理を難しくしている。

主体粗飼料の乾草やグラスサイレージが無くなったから、飼料設計で必要項目を満たしても他で代替えすることはできない。牛の胃袋は正直で、粗飼料の貯蔵量を勘案しながら、年間を通して給与できるような組み立てをすべきだ(写真)。

 TMRセンターではバンカーサイロの切り替え時に乳量減、乳房炎多発・・・など、構成員からのクレームが多いという。そのため、サイロの最後部サイレージは劣悪なので、次のサイロを開封して同時に給与するセンターもある。
 飼料の激変が一時的なものであっても、ルーメン微生物は長期間にわたって悪影響を及ぼす。


長もので恒常性を維持する

 分娩前後における各3週間の移行期は乾物摂取量が低くなるが、栄養要求量は劇的に増える。乾乳期から泌乳期に入ると低濃度の粗飼料から、デンプン主体の高濃度の穀類へ移行する必要に迫られルーメン微生物が混乱する。

 ルーメン内の微生物に耐えるだけの馴致が必要で、さまざまな研究報告があるものの統一見解がでていない。草食動物にとって高濃度飼料の急激な多給はルーメンにとって大きなリスクを負う。ルーメンアシドーシスは死滅したバクテリアが大量のリポ多糖(LPS)を放出、エンドトキシンという毒素を出し、ルーメン壁の表皮細胞の損壊透過性が高まる。

 高濃度のTMR給与は牛にとってペレットや穀類より、長ものの粗飼料、乾草を要求する。アシドーシスに陥った状態を、自らルーメンの恒常性を維持調整するのだろう(写真)。

 分娩後に乾物摂取量の激減や調子の悪い牛は、しっかりと反芻できるように消化性の高い繊維を給与すべきだ。
初産牛は高産次牛より環境に馴れていない、社会的順序が低い・・・、選び食い、固め食いや早食いがが行われアシドーシスになりやすい。
 粗飼料の品質や量、暑熱や寒冷による摂取量、飼料設計の成熟度、従業員の給与技術、はき寄せの精度・・・を追求すべきだ。

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