乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【5回目】分娩後、想定外に母子牛が死ぬ

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母牛は分娩後の死廃が多い

 後継牛確保と搾乳牛維持をするためには、どうしても廃用率を低減させる必要があるが、分娩後、想定外に母子牛が死ぬ。北海道における1年間の分娩頭数に対し、分娩後60日以内死廃率を示した(図)。

平均6.7%であるが0%(およそ1割)から20%を超える酪農家が広い範囲で分散していた(北酪検)。

 分娩後60日以内の除籍率は経営者の意図による淘汰ではなく、起立しない、歩行しない、動けない・・・など、治療不可能で廃用の意味合いが強い(写真)。

分娩後状況は子牛の死産率とイコールではないが、介助、難産や双子は母体へのダメージが大きく関連性は高い。
 死廃は分娩日15%、1か月以内34%、3か月以内53%と、多くは1~2か月で除籍している(図)。

母牛は分娩前後に命にかかわるようなさまざまなストレスを受けていることが理解できる。母牛死廃率が1%と低いK牧場は分娩するたびに順次牛床を移動させ、手前から奥側へ搾乳日数の長い順に並べている。母牛の状態を容易に見極めることができるよう、人の出入りの激しい牛舎入り口に置いて管理している。

 北海道ノーサイの引き受けに対する死廃事故頭数被害率をみても、地域別に差があるものの毎年高い割合で推移している。もし、この数値を1割でも2割でも下げることができれば、道内の酪農業界は莫大な頭数と金額がプラスの方向へ進む。


酪農家間で死産率に差がある

 北海道における3890戸の子牛死産率の分布を確認した(北酪検)。

北海道の乳検加入率は酪農家で7割、頭数で8割をカバーしている。死産率は平均6.2%であるが0%から20%超えまで、酪農家間で広い範囲で分散していた。一年間ゼロという酪農家はおよそ1割、逆に率で3割を超えるところもある。

 単純に、一戸あたり1年間の分娩頭数75頭にするとおよそ6.2%で4.7頭の子牛が死んでいる。肉用牛繁殖経営や軽種馬経営における分娩事故率は1%以内で議論、周産期病が多発する酪農経営だけが突出して高い。


 一方、酪農家における2か年の死産頭数の関係を確認したが、相関は極めて高い。死産が昨年20頭の酪農家は分娩前後の管理を見直さない限り、本年だけでなく3年後、5年後も20頭前後が死ぬ。
逆に、昨年ゼロの酪農家は飼養管理を変えない限り本年だけでなく、3年後、5年後もゼロに近いことを意味する(図)。

 ただ、規模が大きいほど労働力は回らず死産率が高いと推測したものの、経産牛頭数との関係は薄い。130頭以上の大型経営は7%前後で、分娩時の管理マニュアルが確立し実践されている。逆に、飼養頭数の少ない酪農家ほどバラツキが大きく、お爺ちゃんの時代から伝統的に管理していると判断できる。


新生子牛の死亡率も高い

 酪農家が耳標を装着してから出生ゼロか月齢に死んだ子牛は、北海道は3~4%にも達する(図)。

過去に遡っても出生頭数に対する0か月齢の死亡率は同様な傾向で推移している。これはホルスタインだけでなく、黒毛和種、交雑種であっても大きな違いはない(個体識別センター)。

 このことを考えると、子牛の死亡率は分娩前後6%、0か月齢3%、加えると事故率は9%にも達する。これは北海道ノーサイが調査した胎児死と新生仔死を分娩数で除した事故率ほぼ一致する。つまり、生後ゼロか月齢以内に子牛は1割ほど死んでいることが明らかになった。

 経過日数が経つほど死ぬ牛が少なくなり、新生子牛の出生後に集中している。特に、下痢は成長を妨げ、体力損耗・免疫力低下を起こし、肺炎など他の疾病にもかかりやすい。滞在時間が長い床面の乾燥・清潔にするなど、環境の改善が最も必要な時期だ(写真)。

 同じ妊娠期間であっても、母体の栄養状況及び快適性で大きな違いがあり、生後 の体重が大きいほど離乳前の罹患率及び事故率が低い。子牛に早く良質な初乳を飲ませることより、自ら初乳を欲しがる元気な子牛を生ませることが先決だ。


 大型経営のCさんは生後3ヶ月以内の子牛死亡率がゼロで、快適性の追求だけでなく毎日検温を実施している。スターターを給与すると一斉に並ぶので、50頭ほどの子牛を電子体温計にて1頭あたり5秒程度、熱のある場合は早めに処置している(写真)。

 すべての生き物にも死は必ず訪れるもので、避けては通れないが、どんな理由なのかが問題である。
生涯で乳生産に尽くし、年を重ねるにつれて体力は少しずつ衰え、肉体や心が徐々に変化し死を迎えるのが本来の姿だ。

 

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