乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ7 牛の快適性を追求して健康と乳を最大にする(10回)

【1回目】寝ることは健康と乳生産を最大にする

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横臥時間は乳量にプラスだ

生乳生産を高めながら、疾病や繁殖障害に共通していることは、牛床での休息時間がポイントになる(写真)。

その昔、世界記録2万5000kgを搾った牛の行動を調べると、1日の採食時間は6時間15分、横臥時間は13時55分であったという。
平均的な牛の採食時間は5時間、横臥時間は10~12時間を考えると、この牛は20時間以上が採食と休息に費やしている。通路で呆然としたり、ストールで立ちっぱなし、目的のない状態で過ごす時間はほとんどない。
子宮と胎子の養分消費量を直接測定、子宮動脈血流量の日内変動を示した成績がある(図)。

横臥時は一分間に9.7Lで、起立時は7.2Lより2.5Lほど血流量が多く、母牛から胎子や各臓器へ血液を通して酸素と養分を供給している(西田武弘 2004)。立っているより横になることは、心臓と各臓器が同じ高さになるので流れる血流量が多くなるという理屈だ。


現場酪における農家間12戸の行動調査をしたら、一日の群横臥時間は380分の開きがあった(根釧農試1998)。これを乳量に換算すると380分×(9.7-7.2L)/430L(乳量1kg当たり血流量)=2.2kgになる。100頭規模で一日一頭あたり2.2kgは(100頭2.2㎏365日)年間80tの乳量差が生じる。周辺の酪農家と同じ濃厚飼料を給与しているにも関わらず、乳量に差が生じるのは休息(横臥)時間の可能性が高い。


横臥しないのは快適性に問題がある

酪農家の中には起立する牛が目立ち横臥率の低いところもあり、それなりの理由がある。一日の中で、搾乳という行動を終え採食した後は、ほぼすべての牛は反芻をしながら横臥行動に移る。この時間帯に起立している牛は何だかの原因があり、原因を追求し改善すべきだ(写真)。


床が硬く湿って居心地が悪い、淀んだ空気が蔓延している、前方の障害があり寝起きが不自由、暑熱で体を広げて風を受けれない、・・・など、牛周辺の快適性に問題あるからだ。また、繋ぎ牛舎では両サイドの間に仕切りがなく、斜めに横臥することが見受けられる。ストールが狭く隣りが寝ると、スペースがないため、中間にいる牛は起立せざるを得ない状況に陥る。現場で乾いた敷料を大量に入れていくと、数分後に次々と横臥して、ほぼすべてが休息モードへ入ることを確認した(写真)


一方、子牛の横臥時間は一日18時間と長く、一回あたりの持続時間は60分程度だ。一日の大部分を寝て過ごす生き物だが、冷たい床や濡れた藁の上は、子牛の体温を著しく奪って熱の喪失量が多い。床が汚れているときは体を小さくするが、乾燥した床は手肢を伸び伸びと寝るため死んでいると錯覚するほどだ。母子ともに牛床のレイアウトと柔らかさ、敷料の量と乾燥度合の快適性で横臥時間が変わるようだ。


横臥しないのは肢蹄と粗飼料にある

快適性が問題だけでなく牛の肢蹄状態で、体調が悪ければ横臥時間が減少し起立する時間が長くなる。肢蹄が悪く痛みがある場合、寝起きの回数が少なくなるため、どうしても起立時間が長くなる。さらに、繋ぎ牛舎でストールが満杯のため、乾乳牛舎へ移動した直後に分娩近い初妊牛を連れてくる。隣の姉さん首や体を頭突き威圧され、喰べることも飲むことも寝ることもできず、一頭だけ起立する不自然な行動を取らざるを得ない。(写真)。

乳用牛にとって初めての体験によって生まれる緊張や不安に陥ると、ゆったり横臥することはなさそうだ。
一方、乳牛へ与えるエサは長い乾草から、粒子の細かい穀類までさまざまなサイズから成り立っている。給与する粗飼料によって、牛の行動に影響を及ぼすことが明らかになった。(表)


粗飼料の割合を40、50、60、70%にしたら、一日の採食時間と反芻時間はで長くなっていた。逆に、一日の休息時間は728、695、627、587分と、粗飼料割合が高くなるほど、採食と反芻の咀嚼時間は増えるが休息時間は141分ほど減少した(Jiang、2017)。
粗飼料の割合、品質や切断長は採食や反芻時間だけでなく、休息(横臥)行動にも影響を与えることが分かった。

牛が採食して咀嚼後に飲み込むときのサイズ(食塊)は、どの原料飼料でもほぼ7.5~8mmと同じである(Smith2018)。つまり、長ものの乾草はシャープに細かく切断したサイレージと比べ、同じ粒サイズまで咀嚼時間を要する。横臥しないのは牛の快適性だけでなく、肢蹄や、粗飼料によっても影響される。

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