乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ3 乳牛の分娩前後をスムーズに移行(10回)

【10回目】人材育成と確保の人的要素を高める

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繁殖と乳質の情報交換を行う

乳牛の飼養管理に関する情報は数多くあるが、酪農家個々でその技術が確立しているかが問題だ。
主な技術的項目を3点に絞って、酪農家103戸の昨年と本年の2ヶ年間の関係で成熟度をみた。
個体乳量は決定係数0.892と極めて高く、昨年8,000㎏の酪農家であれば本年も8,000㎏、12,000kgは12,000kgとほぼ一致する(図)。

一方、分娩間隔は決定係数0.395とやや低めで、酪農間でバラツキが大きい。昨年400日であれば本年400日、450日の酪農家は450日かというとそうとも限らない(図)。

その中間にあるのが乳質で、体細胞の関係は決定係数0.660と高いがややバラツキもある(図)。

このことから、乳量は個々の酪農家で独自の飼養管理技術が確立している証だ。
天候不順でサイレージの品質が低下しても、購入する飼料や添加剤で補充し管理で微妙に修正をしている。

一方、繁殖はその年の給与する飼料や管理の違いによる牛の状況、発情発見や授精タイミングなど、人の要素が大きく今一歩確立されていない。ブラックボックスの部分が多く、現場の農業者も知識技術を習得しているとは言い難い。

酪農技術の中で最も成熟しているのは乳量で、次に乳質、繁殖の順であることが理解できる。今後は繁殖と乳質の研究機関による技術開発をしながら、現場での情報提供と交換が求められている。


一乳期は分娩を中心にうまく回す

母牛が健康で自然分娩によって生まれた子牛は元気で、大量の初乳を飲み発育は良好だ。
その母牛は周産期病がなく受胎も早いため適度なボデイコンデションとなり、次の産次もスムーズに分娩が行われる(図)。

逆に、母牛が不健康で難産や介助が行われば、生まれてきた子牛は元気がなく発育も良くない。
その母牛は周産期病に罹ることが多く、受胎が遅れることもあって不妊期間が長くなり肥り過ぎで、次の分娩もトラブル(図)。

このことから、一乳期の中でも乾乳から泌乳初期をうまく回転させるかであり、回り方で大きく変わる。
草食動物にとって分娩(出産)は命がけの仕事で、母子ともスムーズに移行できるかだ。分娩前後の母子マニュアルを徹底して、すべての従業員が最高のケアーをするべきだ。

体温測定や分娩予知通報システム等で出産日時を特定、適切な介助、早期乾燥、子牛の保温、母子分離、初乳給与・・・など、母子が満足できる環境を提供すべきだ。


農場内で人材育成と確保が重要だ

大型経営農場33戸を調査分析したところ、受胎率は従業員の数が多いほど高い(r=0.443)。パートの人数は多いほど分娩間隔が長く(r=0.490)、淘汰産次は構成員の数が多いほど高かった(r=0.365)。
労働力は数でなく技術レベルの高い構成員や従業員が中心であれば、乳生産だけでなく乳質や繁殖へ反応する。

酪農現場では不自然な動きや姿勢に遭遇するが、多くは作業する人が牛の本能や姿勢を理解していないために生じる。牛床を移動するとき、最短距離を優先し、途中で転倒して起立できなく、余計な労力と時間を費やすことになる(写真)。

人が多くなるほど、技術力が高く、仲間から信頼のある人材が必要になる。機械は壊れたら部品を交換できるが、作業をする人はそうはいかない。
ほ乳担当者が変わるだけで子牛は下痢が、搾乳担当者が変わるだけで乳房炎が発症する。なぜなら、「牛は物ではなく生き物」で、個体によって大きく異なるからだ。

一方、飼料給与、哺乳、搾乳など、日常作業はそつなく行っているものの、作業者によって牛の反応が微妙に異なる。発情、体調不良、乳房炎など、いつもと違う牛を察知できず見逃してしまう・・・。この分野は数値に表しづらく伝えづらい部分だけに、従業員は技術の本質を理解して、毎日マニュアルどおりに繰り返す労働の質的向上が求められる。

最近、HACCPやGAP認証取得農家が増えてきたのは、危害要因、抗生剤処理・・・だけではない。大規模化に伴い雇用労働力が増えてきて作業マニュアル化を文書化した仕組みづくりである。
「みて覚えろ」という時代は終わり、手順を説明し工程を丁寧に教えることだ。

酪農経営者も他企業の社長と同様に、哲学(ポリシイー)を持つことと、進むべき方向(ビジョン)を明確に示すことだ。酪農が本当の意味で成熟した産業になるためには、人材育成と確保の人的要素を高めることが極めて重要になる。

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