乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)
【10回目】寒さを施設と管理で対応する
清潔で乾燥した敷料を投入する
子牛は心肺能力が低く、体温を調整する能力が低いため、寒さに弱い生き物だ。特に、黒毛和牛の子牛はホルスタインと比べ、体が小さく体脂肪が30%少なく体表面積が大きいため耐寒性に劣る。
生時体重45kg、代用乳4~4.5kgの同条件で保温対策が「なし、あり」で日齢別体重増加量を比較した。21日齢まで、「なし」3.8kgに対して、「あり」6.3kg、42日齢まで、「なし」12.4kg、「あり」18.3kgと差があった(表)。このことから、保温は分娩後に死ぬだけでなく、同じ代用乳を給与しても体重の増加量に大きな違いがある。

横臥時間は一日あたり成牛が4割ほどだが、子牛は7~8割を寝て過ごすので、冷たい床の上では体温を著しく奪う。清潔で乾燥した敷料を十分に投入すれば、手足を伸ばして寝ることが可能だ(写真)。

コンクリート床は体熱が奪われやすいため土や火山灰が望ましく、風が通り抜けないように3方向を壁で囲う。
しかし、床が濡れていたり、硬かったり、起立し続けると、体を小さくして寝る。乾燥しているかを確認するには「ニイーテスト」で、床に人の膝を30秒つけ濡れたら交換をする。出生から3ヶ月間は寒さの影響を極端に受けやすいので、子牛が寝たときに肢まで清潔で乾燥した敷料に覆われている状態が望ましい。
管理で寒さ対策を徹底する
子牛の日増体は0.8~0.9㎏を目標に、生後2ヵ月で生時体重の2倍、体高は10㎝アップを目標にする。ここ数年、酪農現場では子牛育成牛舎へ施設投資をして、寒さ対策が進んできた。
畜舎は機械作業もあるが屋根を低く、南向きで太陽光線を受け、すきま風を受けないように設計する。ウレタンフオームを屋根裏に吹き付けることで暑熱・寒冷だけでなく結露防止にもつながる。畜舎の中にビニール小屋を作ることで、子牛は暖かくそのスペースに集中する(写真)。

畜舎を建設するとき、凍結や雪で開き戸が開けることができないこともあって、業者は下部10cmほどのスペースを空ける(写真)。

風が吹き込むところはゴムマット、コンパネ、ビニールシート、ロール乾草などで寒さ対策をとる必要がある。燃料費を月に40万円かけて上から温風を送り込んで保温しているところもある(写真)。

冬場に子牛の病気が多いのは、寒さ対策で換気不足による肺炎が多発する。牛舎内を締め切ってしまうと、昼夜の温度差やアンモニアガスによって抵抗力の低下を招く。施設で寒さ対策を徹底するべきだが、新鮮な空気も必要だ。
管理で寒さ対策を徹底する
ここ数年、骨格形成を優先するため代用乳のタンパク質を高め、脂肪を下げる動きがある。しかし、寒さでエネルギーの充足度が落ちるため、冬期間は他のシーズンと異なり、ほ乳量を増やし脂肪の高い代用乳へ変更すべきだ(表)。

寒冷地では凍結のため、子牛に水を与えないところもあるが、飲水量はほ乳量を除いて一日2.3~3.8Lほど要求する。水が飲めるように、ぬるま湯を哺乳後15~20分の時間を経ってから給与すべきであろう。
また、子牛にカーフジャケットを着用することで、常に良いコンディションを保つことができる(写真)。寒冷環境下で、ネックウォーマー+カーフジャケットの着用によって2、4時間後の直腸温度が何も着用しない場合と比べて高く推移した。発育は1か月間の日増体量が多くなり、疾病発症状況も、発熱・治療回数が少なかった(鍋西久2022)。

最近は軽量で外側は撥水コート加工、保温性に優れて丈夫、洗濯機による丸洗いができる、マジックテープで外せる・・・など、多くの製品が販売されている。汗腺は前駆特に首周りに集中、皮下脂肪が少なく頸静脈があり毛細血管が発達し首巻きは暑熱だけでなく寒さにも効果大だ。
100均(100円均一)で購入、身の回りで余っているものを材料にカーフジヤケット、ネックウオーマ・・・などを安価で作成できる(写真)。近くに湯たんぽを置く、赤外線ヒーターなどの暖房器具を使った保温はすべきだ。

ここ数年、急速に普及してきたのはカーフウオーマで、分娩数時間の子牛の乾燥と保温が目的だ(写真)。生まれたら初乳を飲ませてから入れるのが原則だが、飲まない子牛は吸飲意欲を高める。いずれにしても、寒さに弱い子牛を施設と管理の双方から対応すべきだ。
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