乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)
【5回目】初乳・移行乳で免疫力を高める
初乳を飲ませ免疫を獲得する
人は胎盤を通して免疫を獲得するが、牛は胎内で移行しないので、初乳を通して吸収する必要がある。
分娩後、1回目に搾った乳は常乳と比べると、免疫物質が多く、白血球は100倍含んでいる(写真)。

タンパク質やビタミン、ミネラル、成長因子など、新生子牛にとって完全な栄養食だ。
生まれてから早めに初乳を飲ませることは、免疫が移行し健康な子牛を育てる。
生後、時間の経過に伴い免疫物質を利用できる割合は急激に減少、24時間以降でほとんど吸収できなくなる。
従来まで、移行免疫の基準は子牛の血清IgG濃度が血清1Lあたり10g以上と定めていた。ただ、死廃率や疾病を低下させるため、10g以上を「普通」「高い」「非常に高い」の新たな基準として3区分を加えた(米国国務省2020)。
雌子牛における血清IgG割合が10g/ℓ以下は死亡率7.4%、疾病率46.1%だが、IgG割合が25g/ℓ以上は2.5%、28.5%であった。
雌子牛は血清IgGが高くなれば罹患率と斃死率が低下していく(表)。

これは新生子牛にとって初乳がいかに重要かを物語っている証だ。
初乳製剤を補助的に使う
時代の流れとともに高泌乳化は、昔飼われていた牛の初乳より抗体は低いと考えるべきだ。
初産牛は経産牛と比べ、母牛の乾乳期間が30日未満や90日以上牛は品質低下につながる。さらに、免疫獲得や成長にとって必須の成分が、質・量は個体ごとにバラツキがある。
そのこともあって、免疫グロブリンを含んだ良質な初乳へ置き換わる初乳代用乳が普及してきた。初乳はIgG150~200g給与すべきで、初乳3~4ℓ飲ませる必要がある。
牛個体で初乳濃度が異なり60g/ℓであれば3ℓ、90g/ℓであれば2ℓでIgGを摂取する必要がある。
もし、母乳初乳のIgGが低ければ、初乳製剤の給与効果がある(表)。

ただ、母牛初乳はIgGだけでなく、ラクトフエリン、インスリンなど、子牛の発達に関する因子が数多く含んでいる。現段階で解明されていないプラスアルフアもあり、初乳代用乳は補助的に使うべきであろう。
生後、時間の経過に伴い免疫物質を利用できる割合は急激に減少、12時間以降でほとんど吸収できなくなる。
酪農家によっては一日2回の搾乳であれば、夜に生まれたら給与まで時間差があり、初乳の効果が期待できないのではと考える。
しかし、免疫グロブリンが吸収されなくても、腸管内に存在するIgGを増やし病原体に対する抵抗力を高める。
このことを考えると、生まれた子牛は虚弱なので、あらゆる手法をとって免疫力を高める必要な生き物だ。
移行乳で健康な子牛に育てる
移行乳は初乳後に3~4日の出荷不可能な乳で廃棄している酪農家が少なくない。コレステロールが多く細胞膜を構成する栄養素で、小腸壁細胞の増殖・新陳代謝に不可欠である。
また、オリゴ糖を含み病原体が小腸壁に付着するのを防ぎ感染を減らし腸内の善玉菌の増殖を促す。
ラクトフエリンという感染防御機能を持ったタンパク質を含み、健康な消化管維持の働きをする。
生後2~4日の移行乳を給与された子牛は十二指腸、空腸、回腸、小腸のすべての部位で絨毛の長さと幅、粘膜の厚さが増えていた。結果として、移行乳の給与に消化器官の消化吸収が高まるからと考えられる(Van Soest 2020)。
生乳(廃棄乳)の方が代用乳と比べ、殺菌しても有利で、母体から得られた貴重な乳は日増体量、治癒率や死亡率など優れている(表)新生子牛への代用乳は殺菌済み廃棄乳より疾病発生率が7倍、肺炎罹患率3倍多い(Godden2005)。

表は子牛の98日齢までの健康状態で、代用乳の給与、移行乳りょうの給与によって子牛の健康状態を示している。何らかの疾病を経験した子牛の頭数、抗生物質を投与された子牛の頭数を示した。

移行乳を5日間給与により乾物摂取量や増体速度、体重を向上させる効果は観察されなかったが子牛の健康状態が改善された(Ostendorf, 2023)。
新生子牛に初乳を飲ませる重要性は誰もが理解しているが、分娩から3日間の移行乳にも貴重な成分が含まれている。給与された子牛はすべての部位で、柔毛の長さと幅、粘膜と粘膜下層の厚みが増え、生後の増体速度を高める。
このことから、初乳・移行乳で免疫力を高め、健康な子牛に育てるべきであろう。
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