乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー

テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)

【6回目】ほ乳はきれいで十分な量を給与する

Index

ほ乳は十分な量を飲ませる

過去、最初の初乳給与は2L、ほ乳量は朝夕の2回で一日4Lという一般的であった。
その根拠が明確でなく日齢や体の大きさに関わらず統一されたのは、当時のほ乳容器が2Lだからと推測される。

しかし、自然界では体重の2割、50kgであれば10kgほどミルクを飲むと言われている。生まれた子牛の体重は30~50㎏以上も差があることを考えると、飲む量を制限しないというのが正解なのだろう(写真)。

最近、このような動きが加速しており、2日目から6L、2週目から8Lを飲ませて下痢が少なく増体も良い。一日4.5Lで下痢が発症(特に冬期)したので、飲みたいだけ飲ましたが過肥はないと現場から聞こえてくる。

一方、給与量が多くなるとスターターの摂取量が遅れ、ルーメンの発達が遅れ、鼓脹症や乳が四胃に滞留する、などの問題も指摘されている。ルーメンの発達か、離乳前の増体かを優先すべきかをNASEM2021は双方の問題を次のように示唆を与えている。

代用乳の給与量は少なくとも誕生時の体重の1.5%という指標が示され、体重45kgであれば乾物675gだ。多く給与するとスターターの摂取量が低下するためで、悪影響を与えない最低要求量である。
ただ、家畜福祉という視点から、1日8L(乾物1000g)以上の哺乳量を勧めている。

ほ乳量を一日6、8,10,12ℓ設定した試験では、増やすことで発育が高まる。少ないとスターター摂取量高く、制限することで固形飼料の適応が早くなるが、ほ乳ロボットへの訪問回数は空腹で増える。

細菌数の少ない乳を給与する

余った初乳や出荷できない移行乳は、さまざまな方法で保管されているが、放置する酪農家も少なくない。
乳は栄養価に富んでいるため、時間の経過とともに生菌数や大腸菌が急激に増え、初乳中のバクテリアは室温30分で2倍、冷蔵庫2日間で10倍に増殖する。

現場で調べたら、細菌数1万以上が9割を超える検体数で「子牛は脂肪を含んだ糞を喰べさせられている」というショッキングな報告もある。

汚染された初乳はIgGの吸収効率を低げ、下痢が発生し成長にも悪影響を及ぼす(表)。

ほ乳器具は毎回アルカリ洗剤で洗浄、複雑な構造の乳首はブラシを使って隅々まで洗う。洗剤未使用の場合は器具の残っていた汚れが細菌に付着し増殖、汚染された初乳や移行乳へ移る。

母牛が起立不能等の事故により初乳を給与できない場合があるので、事前に初乳を薄く凍結保存する(写真)。

ペットボトルなどの厚い入れ物は融解に時間を要するため、高温のお湯になりがちだが免疫グロブリンを壊す。

初乳・移行乳は加熱殺菌をする

ここ数年、加温殺菌する装置のパスチャライザーが現場で急速に普及してきた(写真)。

初乳や移行乳に含まれる牛白血病、サルモネラ菌、大腸菌などを60℃30分(ヨーネ菌は60分)の加熱でシャットアウト、移行抗体やタンパク質が給与できる。
低温殺菌すると免疫グロブリンは死滅しない、IgG濃度に影響せず一般細菌や大腸菌を減少させ吸収率を高める。

ただ、加温は自然界には存在せず、白血球、サイトカインなどの有効な成分も失われるので、牛を特定して使うべきだ。
多頭化ですべてを機械的にパスチャライズする動きがあるものの、健康な母牛の乳まで処理する必要はない。

導入したK酪農家は子牛の疾病だけでなく、出荷するバルクの乳質も良くなった。生後一週間目で下痢が発生していたが、ほとんどなくなり発育も良好で元気になった。
分娩7日目を過ぎたころから初乳で得られた免疫が低下、ロタやコロナなどのウイルスに由来する下痢が発生していた。パスチャライザーは生乳を媒介として、母牛から仔牛に伝染する病原菌の数や種類を抑制することができたと話す。

ただ、高価な機器を購入しても、倉庫の中に埃だらけで使った形跡がないところも散見される。
加熱処理後すぐに給与することを想定した装置なので、容器内で長時間保管すると菌が増殖する。

このことを考えると、生まれた子牛は虚弱なので、あらゆる手法をとって免疫力を高めるべきだ。
給与する乳は「質」「量」プラス「衛生」の3項目が極めて重要になってきた。

お問い合わせはこちらまで