乳牛飼養管理・技術情報 技術アドバイザー
テーマ5 管理によって子牛の健康と良好な発育(10回)
【8回目】自然な姿勢で飲み喰いさせる
自然なほ乳姿勢で満足させる
子牛は母牛に近づき試行錯誤を繰り返し、斜め上の乳頭口から少しずつ飲んでいる。ほ乳の姿は母牛の脚をくぐりぬけお腹の下にもぐりこむため、子牛の首は短く顔が丸くなっている。頸を直線ではなく、一度下げて頭を上げる姿勢が、食道溝反射を働かせている。
この子牛の姿勢は意識しているのではなく、乳を第一胃ではなく第四胃へ流し込む(写真)。

子牛の口は乳頭へ上向きなことを考えると、ほ乳ビンでも上斜めにして飲ませることが理にかなっている。あるほ育センターでは、自然に母牛へ吸い付く上向きのほ乳スタイルを想定して独自に作っていた。
ただ、地面から85㎝と高すぎると誤嚥で第一胃へ流入することがあるので、60㎝ほどが妥当と話す。
写真は子牛の鼻の上部がミルクで汚染され、毛は抜け剥げて皮膚までみえることが現場で確認できた。
バケツでガブ飲みをさせているが、ミルクを飲むときは頭が水面に対し60度の角度で鼻はだす。顔を出すスペースは小さ過ぎるため、斜めに飲むことができず、水面に対して直角に鼻をいれざるを得ない。
そのため、自然な姿勢で飲むことができないため満足できず、子牛の発育を妨げ活力を失ってしまう。

給与は水と固形物は離す
飲水はホルスタイン生後4週令で5kg、8週令で8kg、12週令10kgの水分を要求する(日本飼養標準2017)。
子牛は新鮮な水と固形物を食することで疾病を少なく、生後1週目で自由飲水すると乾物摂取量は多くなる。
ほ乳中の子牛に水を与えることはスターターの摂取量を高めるだけでなく、腸内細菌にも影響を与える。
生後0日目から水を飲ませることで、腸内細菌の種類が多くなり、ビフィズス菌などの善玉菌が腸内で増える(Wickramasinghe 2019)。
一日の飲水量は季節により大きな変動があり、夏期間は冬期間より大量の水を飲む。寒さに強い泌乳牛であっても、外気温と飲水量は関係があり、10度を100とするとマイナス5度94%、-10度87%、-15度82%まで減る。
ミシガン州立大学のデーブビード先生は、生後2ヶ月における離乳子牛のスターターと水のバケツの位置を検討した。
給与する2つのバケツを近づけた場合と仕切りを入れて物理的に離して置いた(写真)。

その結果、仕切りを入れることで、摂取量は水33%とスターター13%が増え、増体率は18%高かった。
双方のバケツを近づけると子牛は飼料と水を交互に摂取するが、板を入れることで頭を一回引いてから飲食する。そのため、スターターと水は汚染されず摂取量が高まり、増体につながったと結論づけている。仕切り坂の設置という単純なことで、子牛の増体量を2割も向上したというから驚きだ。
柔らかな細断乾草を給与する
ほ育期間は繊維を多く含む粗飼料は給与せず、スターターと代用乳のみがルーメンの発達を促す(ペンシルベニア大学 2003)。この研究報告が発表されてから、現場で「子牛に乾草やサイレージなどの粗飼料を給与すべきではない」という動きがでた。
しかし、図で示すように乾草はルーメン液PHの一日の変化が少なく、発達を促し粘膜機能が促進する(佐藤繁)。

子牛の反芻は生後2~3週間から始まり、これによってルーメンのじゅう毛を刺激する。乾草を給与することで3週齢までルーメンpHは高値で推移、給与しないと低く日内変動が激しい(大坂郁夫2016)。
ほ育期における乾草の給与はスターター摂取量を抑制することなくルーメン発達に有効である。
ただ、子牛はスターターに乾草の混合割合が増えるにつれ、増体速度や飼料効率が低下する。離乳移行期は乾草を10%以上は多過ぎで、5%程度の混合が消化や成長を最適になる(Aragona 2019)。
幼い頃から与えるべきだが、胃に刺さっていることが見受けられ、柔らかな繊維を給与すべきだ(写真)。

子牛の口は小さいことから長いままだと摂取できないので乾草は2~3cmに細断する。
子牛のときに選び喰い、固め喰い、早喰いが行われていると、その牛が成長して親牛になっても行う習性がある。
飼料はTMRではなく、粗飼料とスターターを分離して給与すべきだ。子牛は体が小さいので、自然な姿勢で少しずつ乳や水を飲み喰いさせるべきだ。
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